モスクワから

2013年10月09日

 アンドロイド版『三人姉妹』モスクワ公演が無事終了しました。
 もはや、私たちは万雷の拍手やスタンディングオベーションだけでは満足できない地点に来ていますが、まずはこれからにつながる公演になったのではないかと思います。多くの演劇関係者から、「近未来の日本に翻案されているのに、完璧にチェーホフだった」と言っていただきました。

 日本では、『愛のおわり』も大阪公演が終わり、残すところ横浜公演のみとなりました。
 この『愛のおわり』横浜公演で、今年の青年団の国際交流事業は一段落です。私自身は、まだBESETO演劇祭という大物が残っていますが。
 
 2013年度は、本当に海外公演が多い年になりました。4月の韓国、7月スペイン、8月台湾、9月ベトナム、10月ロシア、そして来年3月には香港での上演が予定されています。前年度になりますが、1月から3月は北米を六週間旅していました。私たちは、そのいずれの公演でも、今後につながる大きな成果を残してこられたと思います。
それ以外にも、アトリエ春風舎で作られたフィリップ・ケーヌ演出の新作『Anamorphosis 』はヨーロッパ中の演劇祭を席巻し、SPACと共同制作した『愛のおわり』は絶賛の嵐になっています。

さて、ここからは多少愚痴めいてくるので、できるだけ抑制をして書きたいと思います。今年度、青年団には、文化庁からの国際交流事業に関する助成金は一切ありませんでした。現在、文化庁の当該事業のスキームは主に、「海外公演」「国際共同作業の海外上演」「国際共同作業の国内上演」「東アジアにおける交流事業」「レジデンス事業」(名称は正式のものではありません)の五つです。私たちはそのすべてに申請を出し、すべて不採択でした。
 理由は分かりませんが、審査員の中に、「青年団(平田)には絶対に出さない」と強硬に主張した方がいらっしゃったと漏れ聞いています。本来、審査の過程は外部に公開されないものですから、それが漏れてくるということ自体が、いかに審査が異常だったかという証左であろうと私は感じています。
私は常々、「批評」と「評価」は異なると言ってきました。「批評」「評論」は一つの文学のジャンルであり、独立した芸術行為です。ですから、私はそこで、私の作品について何を言われようと、事実誤認以外には反論をしないことに決めています。
しかし、公的な「評価」は、それとは異なるものだと思います。「評価」は好き嫌いとは別のものです。
 ですから評価は、評論家が行うべきではなく、それを専門とするアドミニストレーター(評論家がアドミニストレーターになることは拒みませんが)が行うべきだと私は考えます。もう少し詳しく書くなら、大学の科学研究費同様、アーティスト同士のピアレビューと、リサーチアドミニストレーターの明確な組み合わせが求められます。
 日本版アーツカウンシルが、早く、きちんと機能することを切に望みます。詳しくは、今月中旬に刊行される『新しい広場を作る -市民芸術概論綱要-』(岩波書店)に書きました。ご笑覧いただければ幸いです。

愚痴はここまで。
 いま、私は、この原稿を、モスクワの空港で書いています。サイトにアップするのは、帰国後になると思いますが。
 帰国したら、すぐに『もう風も吹かない』の稽古が再開されます。アンドロイド版『三人姉妹』の新国立劇場の上演も控えています。
 原稿の方は、来年フランスで創る『変身』と、2016年ハンブルグで上演予定の新作オペラの台本と、そして新しい小説を並行して書いています。いずれ、どれかに集中しなければならないでしょうが、いまのところは、どれも、ぼちぼちと進めています。
誰にも、有無を言わせぬ作品を書きたいと、切実に思います。