桜美林大学文学部総合文化学科演劇コースを共に立ち上げた文学座の坂口芳貞さんが亡くなられました。
実は坂口さんには、現在制作中の『馬留徳三郎の一日』に出演していただくことになっていました。私の演出作品に出演するのは桜美林大学での『もう風も吹かない』以来となりますので、ご本人もとても楽しみにしてくださっていました。
ただ、癌の進行で出演が確約できないということで、昨年の夏には早めの降板が決定しました。
その後も、秋には坂口さんの滞在制作先だった札幌でお目にかかり、私の講演を二時間聞いていくなどお元気な様子でした。
しかし、年末に様態が悪化し、その知らせを受けて新年には、桜美林の教え子たちとご自宅にお邪魔し楽しい時間を過ごしました。
最後に話をしたのは、クラウドファンディングをいくら申し込めばいいかという相談の電話でした。最後まで、舞台を愛し、他人を気遣うお優しい方でした。
桜美林時代、学生たちは、私には話せないことを、よく坂口さんに相談に行っていたようです。私が桜美林を去るときには、「僕も一緒にやめたいけど、それでは残された学生が可哀想だから」と言って、辛いお立場で大学に残ってくださいました。
亡くなられた2月13日、奇しくも、教え子だった市原佐都子さんの、桜美林大学からは二人目となる岸田国士戯曲賞の受賞が決定しました。
坂口さんは俳優として声優として演出家として様々な功績を残しましたが、教育者としても大きな実績を残されました。
ここに改めて、ご冥福をお祈りしたいと思います。
坂口さんは、最後まで「もう少し元気になったら、どうにかして豊岡に行きたいですね」とおっしゃっていました。私たちは、多くの先人の思いを両肩にのせて、さらに、その先を目指していきたいと思います。合掌
2020.2.17.
平田オリザ