こまばアゴラ演出家コンクール始動!

2018年2月14日

 『さよならだけが人生か』全国ツアー、無事終了しました。各会場とも満席でした。ありがとうございました。

 いまは、フランスのリモージュという町に来ています。

 ここの国立演劇センターの付属演劇学校の卒業公演を演出する関係で、今年は、そのプレ授業に来ています。卒業公演は来年で、日仏韓の三カ国合同公演になります。

 二週間の講座ですが、今週の金曜日には一時帰国して岸田國士戯曲賞の選考会。翌日は、二つ、大事な講演があります。

 一つは立川市で教育関連の話をします。

http://www.city.tachikawa.lg.jp/shido/kosodate/kyoiku/iinkai/gakko/kyoikuforum.html

 もう一つは、横浜のTPAMで演劇史の話です。

https://www.tpam.or.jp/program/2018/?program=history-of-japanese-modern-theatre-at-the-speed-of-light

 ぜひ、おいでください。
 翌2月18日(日)は群馬県の邑楽町で講演会を行います。

 次の公演は、さいたま市での『銀河鉄道の夜』です。1ステージだけですが、『幕が上がる』上映以降初の公演となります。すでに一階席のチケットは完売のようです。お早めにご予約ください。

http://www.plazanorth.jp/events/2017/09/ginga.php

 
 さて、先般、新設の「こまばアゴラ演出家コンクール」の概要が発表されました。

http://www.komaba-agora.com/news/concours2018

 たいへん好評で、すでに応募も、ぼちぼち来ているようです。

 なお、年齢制限を35歳以下としていることに関して、お問い合わせなどをいただいているようなので、こちらで私の見解を書いておきます。

 この演出家コンクールは、若手演出家の支援、才能の発見のために企画されました。
 こまばアゴラ劇場は、これまでも支援会員制度などを通じて若手劇団の支援を続けてきました。また、無隣館、青年団からは多くの優秀な演劇人を輩出しています。
 他にも、私自身は、この十年近く、富山県利賀村で利賀演劇人コンクールの審査委員長を務めてきました。このコンクールは、利賀という特殊な空間の中で演出家がその持てる力を振り絞って闘う、非常に意義のあるコンクールだと自負しています。
 ただ、どんなコンクールにも長所と欠点があります。
 利賀のコンクールは、利賀山房あるいは岩舞台などの野外劇場という特殊な空間をねじ伏せるために、強い集団性のあるチームが有利になっています。強い集団を維持することも演出家の才能の一つですから、そのこと自体は問題ではありません。
 一方で、それは演出家の純粋な「演出力」とでもいうべきものを測るのには適していないのではないかという気持ちが長くありました。実際に、俳優やスタッフの力に助けられている上演も多くありました。集団に所属していなかったり、あるいは地方都市で活動をしているために俳優の質を揃えるのが難しいといったハンデも生じていました。
 
社会保障に関して、「事前的再分配」と「事後的再分配」ということがよく言われます。定義は曖昧ですが、一般に、現実に生じてしまっている社会的不公平を是正するための生活保護などの制度を「事後的再分配」あるいは「再配分」と呼び、貧困層への教育支援などによって、そのような不公平を起きにくくするのを「事前的再分配」あるいは「事前配分」などと呼ぶようです。
 昨今、子育て支援や教育支援などいわゆる「人生前半の社会保障」を手厚くするべきなのではないかという議論がよく起こります。もちろん、これはバランスの問題であることは言うまでもありません。
 私はかねがね、日本のような大きな国家が行う文化政策は、演劇でいえば「劇場への支援」「国際交流」「若手への支援」に限り、個別の劇団への支援は各劇場や地方自治体などに任せた方がいいと主張してきました。しかし現状では、申請方式自体が実績重視になっていることもあり、助成を受けられる団体は固定化し、半ば既得権益化しています。
 こまばアゴラ劇場は、文化庁からの助成金と支援会員制度を組み合わせて、実質的に若手演出家や地方の劇団に「再分配」を行ってきたと言えるかもしれません。
 しかし、昨今の経済状況を見るに、それだけでは足りないのではないかと考えるようにもなりました。
 日本の演劇界の現状では、公共劇場の制作機能がまだまだ弱いので、若手演出家が単身で劇場に乗り込んで仕事をするということはほぼ不可能です。ある程度、名前が出るまでは自分で集団(プロデュース団体を含む)を持つか、大きな劇団に所属する以外には道がありません。
 集団を維持するには、何らかの資源が必要となります。資金や人的ネットワークです。簡略化して書くと、いま二十代の若手演出家で有利なのは、東京に自宅があって、東京の演劇コースのある大学か演劇が盛んな大学を出ている方たちです。
 才能がすべての芸術の世界ですから、多少のハンデは、逆に強みとなることもある(あった)でしょう。しかし、スタートラインがあまりに異なってしまうと、有望な才能の登場の機会が失われ、演劇界全体にとっても大きな損失となります。
そこで私たちは、そのようなハンデのある人々でも、充分に実力を発揮できるコンクールができないかと考え、この企画を進めてきました。

 そのような事情なので、当初私たちは、26歳以下、あるいは30歳以下を対象にした、極めて分かりやすい「若手」対象のコンクールを考えました。
 たとえば、これを「学生演出家コンクール」とするなら、疑問は出なかったかもしれません。現に、いまも、いくつかの学生演劇祭が存在しますし、それについて「なぜ、学生なのか?」と問われることはないでしょう。しかし、私たちは上記のような理由から、公的資金を原資として学生劇団を支援する積極的な理由を見いだせません。
 ちなみに青年団は数年前から、ほとんどの公演で、「学生割引」を廃し、26歳以下の「ユース割引」としています。

 今回、山口茜さんから、ツイッター上で、以下のようなご提案をいただきました。
「35歳以下しか応募できないんですけど、35歳を過ぎていても「産休」として演劇を休み、戻ってきた方は、その旨伝えて参加させてもらえないか聞いてみても良いと思います。子供を産むために休んだ人が年齢制限でチャンスをつかめないなんてどうかと思いますので」
 
 まさに私たちが、今回年齢制限を35歳としたのは、そのような認識からでした。
 日本の演劇界の現状では、遅くに演劇を始める方もいます。産休だけではなく、親の介護や失職など、どこまでを認めればいいのか線引きは難しくなります。また日本以外の国籍の方の場合、徴兵期間中をどう扱うのかも問題となるでしょう。
 これらをすべて線引きすることは不可能です。いっそのこと、年齢制限を外せばいいのかもしれませんが、それでは私たちが発信するメッセージ性が薄れてしまいます。
 そのような経緯で、とりあえず、初回である今回は「35歳以下」としました。今年の応募の動向や、皆さんからのご意見も伺いつつ、来年以降の規定をまた決めて行ければと考えています。
 「産休」など、それぞれの事情は、応募書類にお書き添えいただければと思います。

 なお、上記の文脈からおわかりいただけるかと思いますが、外国人演出家の場合は通訳を連れてくることを許可しております。また、聾唖の方の場合も手話通訳を同席させることができます。
 地方からの参加者には宿泊の補助も用意しました。
 まだまだ足りない部分があるかもしれませんが、一民間小劇場としては、これが、現在の限界です。

 ちなみに、いま私が教えているリモージュの演劇学校は、授業料などすべて無償、アパートには家賃補助があり、他に全員が月に5万円前後のなんらかの奨学金(返済不要)を得ています。パリにみんなで演劇を見に行くのも、学校側が交通費と観劇費用を負担するそうです。
 あとは、親からの支援がない学生は、バカンス期間中に集中的にアルバイトをしたりして、学期中は演劇に専念できる環境を整えます。もっとも厳しい学生のみ、劇場でアルバイトをしながら学校に通っています。
 パリやストラスブールのコンセルバトワールに行けば、さらに恵まれた環境が用意されています。もちろん、それだけ選抜も厳しいのですが。
 彼我の環境の差は目もくらむばかりですが、嘆いていても仕方ありません。
 私たちは、局所的にでも成功例を積み上げ、才能が素直に育つ環境を整えていきたいと考えています。

日記の続き(半年前になってしまった)
7月4日 豊岡市でたくさん仕事
5日 高松北中学校で丸一日演劇の授業。
6日 栃木県の作新学院で『さようなら』の公演と講演会
7日 岡山県奈義町でたくさん仕事
8日 もしもし検定の指導者向け講演会、夜無隣館の創作発表会、打ち上げ
9日 世田谷区中央図書館で講演会。小竹向原のジョナサンでスペインの新聞社のインタビュー、劇団の全体ミーティング
10日 この日から三日間、東京外語大で集中講義、夜取材一件
11日 外語大。この日も夜取材一件。
12日 外語大、120人くらいが受講してくれたのだけど、とてもいい講義になった。大教室でもやればできることが分かった。そのまま成田からマニラへ。
13日 マニラの国立劇場でワークショップと講演会
14日 この日もマニラでワークショップと観劇。
15日 朝から2018年の公演『マニラノート』に向けてのミーティング、昼食会。充実した三日間でした。深夜便で帰国。羽田泊
16日 そのまま福岡へ。ワークショップと懇親会。豊岡へ
17日 豊岡で中高校生対象のワークショップ。KIACのプログラム選考会。
18日 朝の飛行機で帰京。藝大で授業。博報堂でワークショップ。
19日 ふたば未来学園で職員向けの研修。
20日 阪大で教授会と授業。豊岡へ。会議一件。
21日 豊岡市職員採用試験模擬試験。今年から豊岡市も職員採用試験に演劇などのグループワークを導入する。福知山と京都でそれぞれ打合せをしつつ富山へと向かう。
22日 この日から無隣館利賀合宿。『革命日記』のテキストを使ってさっそく稽古。
23日 利賀演劇人コンクール開幕。二本観る。
24日 富山大学芸術学部で授業。そのあと別の大学の打合せ。
25日 上演審査一本。あとはひたすら稽古。
26日 この日も上演一本。
27日 この日も上演一本
28日 この日は上演なし。無隣館合宿の打ち上げ。
29日 上演二本。審査会。
30日 早朝に山を下りて新幹線で盛岡へ。岩手大学国語教育学会。懐かしい皆さんにお目にかかる。花巻空港から伊丹へ。なかなか東京に帰れない。
31日 この日から、立命館、灘、追手門高校の三高合同演劇セミナー。先生方と懇親会。
8月1日 この日もセミナー。無事発表も終わり。 そのまま阪大に出勤して入試関連の会議。
2日、再び伊丹から花巻空港へ。教員免許更新のためのワークショップと講演会。新幹線で帰京し、高円寺で戯曲講座。アゴラで深夜まで会計処理。二週間ぶりの自宅。