『南へ』あと3日

2015年2月07日

『南へ』の稽古は順調に進んでいます。というより、劇場に入って、一日最大14時間の稽古三昧の日々です。
10日初日です。ぜひ、おいで下さい。

http://www.seinendan.org/play/2014/06/4157

以下、当日パンフレット用に書いた文章です。

『南へ』若手公演に寄せて

 この作品の初演は1990年、まだ「ヘイトスピーチ」なんて言葉もない、ある意味それは、牧歌の時代でした。もう崩れかけていたとはいえ、世界はまだ冷戦構造の中にあり、まさに冷たい安定の中にありました。
 それから25年が経ち、日本は進歩したのか、後退したのか? この作品は、観る方によって様々な感慨を起こさせるものではないかと思います。
 この舞台では、バブル経済が、あのまま極限まで進んだ仮想の未来が描かれています。しかしそれが、現況のアベノミクスが目指そうとしている地点と怖ろしいほど似ているということは、誰もが感じていただけることかと思います。
 あるいは、青年団のファンの方たちには、この作品が『ソウル市民』の翌年に書かれたものであることも覚えておいていただきたい。私は当時、『ソウル市民』の未来版として、この作品を書きました。

『南へ』は、フェデリコ・フェリーニの異色作『そして船は行く』へのオマージュとして書かれた作品でもあります。この映画を観た方なら、随所に、類似する要素が散りばめられていることが分かるかと思います。
 『そして船は行く』は、1914年、第一次世界大戦前のヨーロッパ貴族たちの腐敗と倦怠と、そして大戦勃発時の静かな不安が描かれています。私たちを乗せた船が、新たな戦争に突き進まないことを祈ります。
 劇中に出てくる「杏の実」は、敬愛する田中英光の『オリンポスの果実』という小説からモチーフをいただきました。こちらはストレートな純愛小説です。『南へ』もまた、純愛の戯曲でもあります。